世の中の評判をとった名菓が、老舗ののれんを背負い、長い歳月その評判を落としもせず、人や時代の浮世の巷を生き抜いて、今も華の名を張っている。そうした名品に出会うとき、菓子の強力(ごうりき)ということを考える。並一通りでない強力がその菓子には備わっているのである。
私の住んでいる下関にもそんな菓子がある。松琴堂の阿わ雪。口の中で消え行く感じが春の淡雪を思わせると誰もが言うが、羊羹でなくメレンゲでなく、装飾景の一点もない白一色の姿が、実に潔く美しい。口中での消滅感がまさにこの菓子の真骨頂で、味覚にも触感にも、一種言うに言えない幻めいた境地がある。あわあわと白妙の幻想の姿形の物を食む(はむ)が如き不思議な感じがあるのである。妖しい風趣とでもいうべきか。
週刊朝日 1998年1月30日号 おやつ自慢より
1998年1月30日号の週刊朝日に作家赤江瀑先生のご紹介で掲載していただいて2日目のことでした。ある老紳士からのお問い合わせ。
「昔、満州でこれと同じであろうあわゆきを食べたのですが、あの時と同じお菓子でしょうか?あのときの味が忘れられず、妻とずっとさがしていたのです・・・」
このご夫婦がめしあがられたのは、おそらく松琴堂の4代目が満州に支店を出していたときに求められたものでしょう。
実に50有余年もの間忘れずに探し続けてくださった方がいたとは、老舗としての菓子屋冥利に尽きる大変うれしくありがたいお電話でした。
ほんわり、やんわり、ほわほわ、さふさふ・・・・・なんと表現したらいいのか。
その独特の口あたり。上品な甘さの中にそこはかとなくたよりなげでありながら、ちゃんとしんはしっかり持っていて、春をすぐそこにひかえた心楽しい感じが伝わります。
一度気に入ってくださった方なら、いつまでもこのお菓子のことは忘れず、いつまでも懐かしい下関の思い出とともに、召し上がっていただいています。以前下関に住んでいた方々からの発送注文も多くいただいています。
卵白、砂糖、寒天の3つだけのとてもシンプルなものですが、全てにこだわって厳選した優良なものを使用しています。
卵白・・・今日仕入れたものを今日使う位の気持ちでできるだけ新鮮な卵を使用。
砂糖・・・特に厳選して製造開始当時からかわらぬ最高の品質のものを使用。
寒天・・・寒天の名産地で作られた最高品を取り寄せています。
あわだてた卵白に寒天、砂糖で作った液を合わせて作ります。単純な工程の様だが、その量、タイミングなどは極秘事項!その全ては後継者ただ一人だけに伝えられる。(一子相伝)それだけにテレビや雑誌の取材でも製造過程は取材拒否させてもらっています。
もちろん、全工程手作りです。
一本あたり約38kcal
一切れにすれば63kcalほどです。
ノンオイル、寒天=食物繊維→ローカロリー
阿わ雪 賞味期限 常温7日 即冷蔵14日
直射日光の当たらない涼しい所で一週間もちます。納品日よりすぐ冷蔵庫に入れれば二週間はもちます。冷凍してもコチコチにならずすぐに包丁が入ります。
「春の淡雪の様だ」という、お言葉(伊藤博文公)よりイメージして華やかなピンクに金色の雪輪をデザイン、勿論、「阿わ雪」の文字はその伊藤公よりいただいた形で、松琴堂の白いふわふわのお菓子=「阿わ雪」であり、「あわゆき」、「泡雪」、「あわ雪」など、ではない!と古くからのお客様は言われます。
下関の代表銘菓としてお土産に使われるだけでなく、純白の婚礼衣装のイメージに重ねて、婚礼の引き出物として昔から喜ばれている。その際には「寿」の字を紅羊羹の上にすり込みをして差し上げることも可能です。別途お問合せ下さい。
近頃はホワイトデーの贈り物として男性からの御注文も増えています。
昔から御来店下さったお客様に、「卵の白身は阿わ雪に使うのはわかるけれど、黄身はどうされているんですか」とよく尋ねられます。中には「白身だけ買うの?」なんて方もありますが、決してそんな事はありません。
毎日持ち込まれた卵をその日使う分だけどんどん割っては白身と黄身に分けているのです。(私事ですが、特別な卵を用いているので私の子供は「白身とオレンジに分ける」と申します。それ丈黄身が濃いのでしょうか)
白身は無論「阿わ雪」の原材料です。
黄身は?YES!!松葉ぼうろをはじめとするボーロの生地にタップリ使われます。それで丸ボーロには、「黄身練り」と表示しているのです。カステラにだって沢山入っています。黄身が濃く、黄金カステラといわれる由縁でしょう。新鮮な材料だからこそ何のエッセンスも入れずにすばらしい卵の風味が残るのです。
又、松琴堂のかくれた人気商品が黄身しぐれです。これも有精卵の黄身がしっかり使われたお菓子です。どこの和菓子屋さんにもあるお菓子なのですが、「何かが違う、ふんわり感、口溶け感、風味が違う」とこればかり買って帰られるお客様も少なくありません。
その黄身しぐれの生地を平たく2枚作り、えりすぐりの丹波大納言製の粒アンをサンドしたのが「唐錦」。
このお菓子は棹菓子の中で1番デリケートなお菓子です。こわれ易く、包装にとても気を使います。あの黄色と黒のコントラストのあざやかさはお客様の目をひくようで、阿わ雪とのセットでよくおもとめになられます。実際、味わうと、黄身が多いせいか、少し洋菓子風の感じもしますね。
近頃はぷりんもお作りしております。ちゃんと形はあるけれどお口の中ではとろ~りとくずれて濃厚な卵の風味がいっぱいに広がって、手前味噌ではございますがそれは美味しいぷりんです。隠し味に和三盆糖を入れていますのでちょっと和風・・・カラメルソースの濃さも絶品です。残念ながらいつもある商品ではありません。防府のお客様は何度もこられるのになかなか出会えずとうとう1年かかっておしまいになりあまりのことにお送りさせていただいたこともありました。ひと言う[幻のぷりん]ひそかにファンが増えています。(平成21年7月追記)
こんな感じで黄身も大活躍しています。